- なむ
- I
なむ(係助)〔上代の係助詞「なも」の転。 平安中期以降「なん」と発音されるようになり, 「なん」とも書かれた〕体言および体言に準ずるもの, 助詞などに付き, 特に取りたてて強く指示する意を表す。(1)文中にあって係りとなり, 文末の活用語を連体形で結ぶ。
「身はいやしながら, 母~宮なりける/伊勢 84」「この北山に, 限りなく響きのぼる物の音~聞こゆる/宇津保(俊蔭)」
(2)「なむ」を受ける述語を省略し, 文末にあって, 余情をもたせる言い方をとる。「かく聞こえたりければ, 見さして帰り給ひにけりと~/伊勢 104」「ただここに, 人づてならで申すべきこと~/枕草子(七一・春曙抄)」
〔「なむ」は, 物語などでの会話文中に多く見られ, 和歌にはほとんど用いられない〕IIなむ(助動)〔上代東国方言〕推量の助動詞「らむ」に同じ。「橘の古婆の放髪(ハナリ)が思ふ〈なむ〉心愛(ウツク)しいで我(アレ)は行かな/万葉 3496」「まかなしみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川(ミナノセガワ)に潮満つ〈なむ〉か/万葉 3366」「群玉のくるにくぎ鎖し固めとし妹(イモ)が心は動く〈なめ〉かも/万葉 4390」
〔推量の助動詞「らむ」に相当する上代東国方言には, 別に「なも」の形もある〕→ なも(助動)IIIなむ(終助)〔平安中期以降「なん」と発音されるようになり, 「なん」とも書かれた〕文末にあって動詞・助動詞の未然形に接続する。 ある行為・事態の実現を期待し, あつらえ望む意を表す。 …てほしい。 …てもらいたい。「うちなびく春とも著くうぐひすは植ゑ木の木間(コマ)を鳴き渡ら~/万葉 4495」「飛ぶ鳥の声も聞えぬ奥山の深き心を人は知ら~/古今(恋一)」「引き替へて嬉しかるらむ心にも憂かりし事は忘れざら〈なん〉/山家(雑)」
〔上代には, この語の古形「なも」も用いられた〕→ なも(終助)IVなむ(連語)〔完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「む」の付いたもの。 「なん」とも〕(1)動作・状態の実現すること, 完了することを確認し推測する意を表す。 …するようになるであろう。 …することになってしまうだろう。「年を経て花の便りにこととはばいとどあだなる名をや立ち~む/後撰(春中)」
(2)動作・状態を実現しようとする強い意志を表す。「かくだにも妹を待ち~むさ夜ふけて出で来し月の傾(カタブ)くまでに/万葉2820」
(3)動作・状態の実現を勧誘し, また, その実現が適当であるとする意を表す。 …したらどうだろう。 …したほうがよいだろう。「忍びては参り給ひ~むや/源氏(桐壺)」「子といふものなくてあり~ん/徒然 6」
(4)動作・状態の実現を可能であると推量し, また, 許容する意を表す。 …することができるだろう。 …てもかまわないだろう。V「かばかりになりては, 飛びおるともおり~ん/徒然 109」
なむ【並む】※一※ (動マ四)並ぶ。 連なる。「松の木(ケ)の~・みたる見れば/万葉 4375」
※二※ (動マ下二)並べる。 連ねる。 なぶ。VI「楯(タタ)~・めて伊那佐の山の木の間よもい行きまもらひ/古事記(中)」「たまきはる宇智の大野に馬~・めて/万葉 4」
なむ【南無】〔梵 namas〕仏・菩薩・経などを信じ敬い, それに帰依することを表す語。 一般に帰依の対象となる語をそのあとに付けて感動詞的に用いる。 帰命(キミヨウ)。 納莫(ノウマク)。 なも。VII「~八幡大菩薩, たすけさせ給へ/平治(下)」
なむ【嘗む】⇒ なめる
Japanese explanatory dictionaries. 2013.